Street Medical Talks 8つのプレゼンテーションまとめ

横浜市立大学先端医科学研究センターコミュニケーション・デザイン・センター(YCU-CDC)と東京デザインプレックス研究所(TDP)は2020年2月11日、東京都千代田区にある東京ミッドタウン日比谷BASE Qで、医療×デザインをテーマにした新しい医療・医学のカンファレンス「Street Medical Talks」を開催しました。
当日のStreet Medical School受講生によるプレゼンテーション内容の概要を発表順に紹介します。

カンファレンス全体のレポートは、こちらの別記事でご覧ください。
新しい医療・医学のカンファレンス「Street Medical Talks」開催

香りで神経疾患開発や健康意識向上を促す〜“Scent”チョコレート〜

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パーキンソン病とアルツハイマー型認知症は、先行症状として数年前より「聴覚障害」が認められることが複数の研究により示唆されていることを踏まえ、様々な香りのフレーバーチョコレートを顧客に提供するプロダクトを提案しました。

パッケージには何の風味かは記載せず、ユーザーは、チョコレートの香りを楽しみ、風味を推測しながら、実際に味わって風味を知ることができます。一人もしくは複数でチョコレートを楽しみながら、自分自身や家族や友人たちの嗅覚を意識することが狙いです。

買う、開ける、嗅ぐ、何の匂いか当てる。その一連のプロセスをゲーム感覚で楽しめ、大切な人とのコミュニケーションの手段にもなるのが特徴です。

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■ 質疑応答
武部氏からの「すごい。感動している。他にも色々な領域に使えそう」とコメントに対して、「アレルギー性鼻炎や脳の腫瘍、術後の経過(判断)」などに活用できる可能性へと広がりました
「どこと組むと広がるか?」と質問には、大型生活雑貨店の「東急ハンズやロフトを想定している」と返答。チョコやバスキューブ以外のアイテムとして「最初はアロマオイルなどを考えた」が、よりストリートな形でみんなが楽しめるものを考え、チョコレートを考案した、とのことです。
その他、アドバイザーからは「ビジネス層を狙うなら、オフィス用品のアスクルさんと組むのも面白いのでは」との意見も寄せられました。

病室での「多様なすごす」をデザインする 〜ホスピタリティ空間・家具〜

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株式会社 乃村工藝社のプロジェクトメンバーは、病院待合におけるホスピタリティ空間と家具を提案しました。

きっかけは、小児科入院病棟の待合室。家族でお見舞いに来ても、入院中の子に会えるのは親だけのケースもあり、きょうだい児は長時間、待合で待たなければいけない課題を抱えているとのことです。

家具は、パーツを組み合わせることで、病院を改装しなくても、一人になれるプライベート空間「Personal」や、会話ができる「Communication」、そして参加型の楽しい時間を過ごせる「Active」の3通りの空間が導入できるように設計されています。

待合の特性に合わせて、病院や利用者のニーズもふまえて、患者だけでない来院するすべての人へのホスピタリティ実現を目指します。

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■ 質疑応答
横浜市立大学の伊藤教授は、「病棟の殺風景なところが晒されてしまった。あの場所と中庭をどうしようと考えていた。3つの過ごし方は、まさにスーパー銭湯」との感想を述べ、耐久性、防災面の安全性を高める方法を尋ねました。「衛生面は、手に触れる箇所はアルコールに耐えうる木の素材を採用したい。防災面は、構造計算の専門家に検討していただいて倒れないように固定したい」と答えました。

「実際パーツは誰が組み立てるのか」の質問には、「課題をあぶり出すためのツールなので、実際のものを完成させるのは我々なのか家具屋なのか、ちゃんと完成させていく。イケアのように組み立てるのは想定していない」と返答。

その他、「課題発見型。これをやるんだという強い思いがある。そういう場所が欲しいという声も大事。そのマッチングがある場合にプロジェクトが進む」「ビデオ通話ができれば、掛け替えの時間が過ごせる」「病院を過ごすと捉えたところがとても良かった。ドクターの意識改革になるんじゃないか。衛生面や効率を考慮して無機質になっているが、そうじゃなくてもいい」などの感想が寄せられました。

※本プロジェクトは、YCU-CDCと乃村工藝社の共同で取り組んでいます。

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緩和ケアのための 患者 = 患者家族 = 医療者間コミュニケーション・デザイン

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緩和ケア病棟における「看取りを待つ場所」というイメージを一新し、コミュニケーションを活発にする場所にする施策を考案。横浜市内の緩和ケア病棟を訪問し「がん患者のつらさをやわらげ、“生きる”をささえる」理念する一助になるような2つの施策としました。

1つめは「病室カスタマイズ」で、病室の壁の一面を患者の部屋のようにカスタマイズできるサービス。患者の情報が可視化され、家族や医療者とのコミュニケーションの起点になります。

2つ目は「アロマ・コミュニケーション」。看護師が患者にサービスで実施しているアロマオイルのマッサージの知識や技法を家族に伝えることで、家族も緩和ケアに関わることができ、患者はむくみの改善や家族との時間を過ごすことができます。

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■ 質疑応答
実地見学にご協力いただいた緩和ケア病棟の医師からは、「8割の人が亡くなっていく病棟。日頃使っていたものを持って来ていただいて、過ごしてもらえたら、医療者も患者さんに話しかけるきっかけになる」と感想をいただきました。

他にも、「自由に使っていいよ、という空間設定自体はすごく意味がある」「緩和ケアは課題のある領域。終のすみかが緩和ケア病棟になるのは疑問があるが、治らない病気を抱えた人がどこで誰と過ごすかが重要になっている。対話をするためのアイデアは、たくさんあっていい」などの声が寄せられました。

救急判断に迷った時に!『#7119』の認知度向上のための自動販売機施策

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発表者は、外出中に体調を崩した人に遭遇して救急車を呼ぶかどうかの判断に困った経験をふまえて、199番を呼ぶか迷った時の相談ダイヤル「#7119」の認知度向上の施策を考案しました。

救急車は5秒に一度の頻度で出動要請があるが、搬送人員の約54%が軽傷の現状をふまえ、約7割が知らない「#7119」の認知度向上の重要性を唱えました。

具体的に、熱中症を例に、駅やバス停、野外イベント会場での救急シーンを想定。全国の自動飯場機を利用して、スポーツ飲料や塩分入りタブレット、冷却材などの熱中症対策商品を展開し、各商品に「#7119」の紹介や、熱中症や救急に関する情報を載せます。

その他、季節ごとに増加する病気や体調不良を引き起こしやすい環境などで、同展開のシリーズ化を考案しました。

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■ 質疑応答
「自販機はどこにでもある。いいアイデア。コカ・コーラとか飲料メーカーと組んでやってみると、どう消費行動が変わるのか。データ化するといい」との意見が寄せられました。

武部氏は、「部活などがある中学・高校の自販機でやるなど、プロポーサル先が見つかるといい。自販機は顔認証でドリンクを提案できる点で良いタッチポイントなのでは。」とコメントしました。

「Street Medicalの意義があって、メインストリートじゃなくて一歩裏のストリート的でいい」などの声のほか、「AEDも普及に20年くらいかかったが、今では、AEDは運動場やオフィス学校にもある。この番号(「#7119」)は、13年も経っているが普及していない現状がある」とありました。

『AMR対策×ボードゲーム』を用いてのエデュテインメント

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AMR(薬用耐性)とは、抗菌薬の不適切な使用などを背景に、抗菌薬が細菌に対して効かなくなること。世界でもAMRによる死亡者数は2017年の70万人から2050年には1000万人に上ると予想され、大きな課題となっています。

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AMRの拡大を防ぐためには、教育(Edication)×娯楽(Entertainment)=エデュテインメント(Edutainment)の取り組みが効果的と考え、予防啓発のボードゲームを考案しました。

2050年に影響を受けることが予想されるが、AMRの認知が進んでいない、現在の小・中学生を対象に、教育ツールとしてのボードゲームを作成。イラスト中心の基本セットのほか、カードの種類を増やす拡張パックまで、難易度を調整できるように設計。将来的には開発途上国における教育活動も視野に入れています。

■ 質疑応答
武部氏からは「発展途上国にも患者はいると思います。ただ、知識がないと遊べないのではないか」との質問に、「遊びながら学べるイメージ。実際に遊んだら、1セットやればおおよそのルールはみんなわかるのでは」と答えました。

医師からは、「医師の教育に良さそう。一般の人はそこまで意識がなく、そういう前提に立って考えたほうがいい」などのコメントが寄せられました。

他にも「カードゲームの名前は? 『AMR×ボードゲーム』だと子どもはわからない。例えば「人 対 菌」なら興味を持つ。面白そうと思うポイントを探る」というアドバイスや、「ポリファーマシーの問題だと『ドーピングガーディアン』という薬剤師が作ったゲームがこれに近い。子どもたちものめりこめる」などの声が上がりました。

学校での近視発見からの受診 ―Hybrid Imageを用いて―

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近年は中高生の近視が深刻化しており、勉強やスマホによるゲームなどの日常習慣が要因と考えられるが、日常生活では気づきにくく、年に一度の健康診断で初めて発見されて眼科を受診するケースが多いです。

そこで、学校内に「Hybrid Image」を取り入れることで、生徒たちによる視力の自認に繋げる取り組みを考案。「Hybrid Image」とは、視力によって見えるものが変わる画像のこと。視力がいい人にはAに見える画像が、視力が悪い人にはBに見えるものを指します。

ここでは、学校の階段の踊り場に、アインシュタインとマリリン・モンローとの「Hybrid Image」ポスターと掲示する案を発表。QRコードと組み合わせ、コミュニケーションアプリのLINE BOT機能を追加することで、定期的に視力に関する啓発する構想しています。

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■ 質疑応答
広告やデザイン関係者からの、「マリリンモンローとアインシュタインにした意図と、他に可能性は?」との質問には、「メインのターゲットを考えると、アイドルしか浮かばず止まってしまった」との返答。アニメキャラクターのドラえもんとアンパンマンの「Hybrid Image」も製作可能とのこと。

他には、「仕組みとしてすごく面白い」「ゲームが眼に与える影響をデータを集約して将来の医療に活かせないか。緑内障は、片目だけ見えなくても気づかないこと多く、気付いたときにはもう見えないリスクも。」といった感想が寄せられました。

発表者は、スマートフォンの位置情報を利用して、LINEで近隣の眼科を紹介する仕組みも考えているとのことです。

お母さんのための駅ビル・ショッピングセンター「フリーダム育児」施策

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子どもの虐待通報件数は、年々増加しており、0歳児の虐待児は全体の43%をしめる(H27年、厚労省データより)。核家族化が進み、ワンオペ育児などが課題となるなか、母親の約半分が孤独感を感じています。

そこで、母親は外に出て他者とコミュニケーションをとりながら育児ができる「フリーダム育児」環境を整えるための施策を考案。駅ビルやショッピングセンターを活用して、母親の状況に合わせて2つの施策を発表しました。
1つは、「心が疲れて、外出したくないお母さん」向けに、買い物ついでにちょっと寄れてコミュニケーションが取れるように「お子様フォト」や「願い事ツリー」「心情ノート」などのスペースを提供。

2つめは「外出したいが、ベビーカー問題等で自由に活動しづらいお母さん」に、ベビーカーOKの飲食店やホコ天スペースなどの「ベビーカー天国」や、寝た子を起こしちゃダメ競争などの「ベビーカー運動会」を考案した。店舗の入口に「フリーダム育児」のステッカーを貼り、テナントやデベロッパーなどの協賛を広げていく構想です。

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■ 質疑応答
「ウェルカムです、ということを発信することが大事。何らかの発信をすれば、行きやすい場所になる」といった声のほか、「産後うつは約10%といわれている。お母さんと一緒にというより、離れられる場所が必要なのでは。お父さんがいける場所もいい。理解とサポートある場所なら、バリエーションはいくらでも作れる」という意見が寄せられました。

小児医療の視点からは「ステッカーにお父さんも入れてリベラルな表記に。出生数は、40年間でこの国の子供は半分になった。この20年で50万人減っていく。企業や街づくりには、富む人のためじゃなくて、子育てにお金を使ってほしい」とコメントがありました。

小児の入院中の食事体験に楽しみを増やす食器カバーとカトラリー

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入院中の食事は、入院生活における楽しみであり治療の一環にもなる重要な行為であるが、小児にとっては「好きなものを自由に食べられない」「家族と食べられない」などの制限が多く、満足できる体験とは言えないのが現状です。

そこで、小児が入院中に気軽に取り入れられる2つのプロダクトを考案。1つ目は、食器カバーとランチョンマットのパッケージで、着せ替え遊びをするように、食器のデザインを変えて、テーブルセッティングを楽しむことができるようにする。2つ目は、温度によって発色するインク(メタモカラー)を活用したカトラリーで、視覚的な楽しさにより「手に取る」「食べ物をすくう」「口に入れる」などの動作のきっかけになります。

これらを通じて、入院中の食事の楽しさを工夫することで、孤食の寂しさの軽減や、積極的な食事行動につながることを構想しています。

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■ 質疑応答
デザイン視点では、「子どもはこれが可愛いと思うだろう、という決まりきったカトラリーは暴力的な部分も。シリコンをカスタムできたり絵柄を変えられたり、拡張できる部分があるといい」との意見が寄せられました。

「3歳児であれば、シリコンじゃなくてマグネットがいい。スプーンが大吉だったり、巻くものが温度によって変わったりするのは面白い」としながら「問題なのは、高熱で滅菌する食洗機で、耐えうるだけの塗料であることが大事。材料工学でクリアできるか」といった質問が寄せられました。

その他、「食事を楽しめない人、子どもやお年寄りには有用。安心感が生まれる」などの声が上がりました。

「医療×デザイン」をつなぐ、新しい医療・医学のカンファレンス「Street Medical Talks」

本カンファレンスは、「Street Medical School」の受講生がチームで取り組んできた新しいアイデアが多くの人たちにシェアされ、医療者や広告、デザインの交流が生まれる場を作ることができました。今後、医療や広告、そして企業や自治体など、様々な分野や領域を横断し、「Street Medical」のアプローチによる新しいアイデアを社会実装する担い手を創出する大きな一歩となりました。

取材・文:笹川かおり

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