これからの医療・医学を考えるカンファレンス「Street Medical Talks」開催

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横浜市立大学先端医科学研究センターコミュニケーション・デザイン・センター(YCU-CDC)と東京デザインプレックス研究所(TDP)は2021年12月26日、Zoomオンライン配信にて、医療×デザインをテーマにした新しい医療・医学のカンファレンス「Street Medical Talks」を開催しました。

本カンファレンスでは、YCU-CDCとTDPが運営する次世代の人材育成プログラム「Street Medical School」の受講生らによる卒業発表を中心に、フリーアナウンサーの町亞聖さん、都市デザイナーの内田友紀さんをコメンテーターとして招致し、ディスカッションを行いました。

新しいアイデアについて議論した当日の様子をレポートします。

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医療の新しい価値と「Street Medical」

最初に、YCU-CDCのセンター長・特別教授である武部貴則氏が、新しい医療の概念「Street  Medical」について説明します。

OECD加盟国を対象とした調査によると、寿命を全うできなかった方約300万人のうち、現代の医療で治療が可能だった方が180万人以上いました。この結果を受けて、武部氏は医療が抱える大きな問題に着目します。

「多くの人が、解決方法がわかっているが実行できないという状況で命を落としています。この問題に対処するためには、既存の医療技術や考えに、実行するための価値をうまくつけることが必要だと考えます。」

医療や医学の世界では、治療が困難な方に向けて新しくテクノロジーを生み出すことは重要視されています。しかし、既存の技術や考えに対して価値をつける方法については体系化されていません。そこで武部氏はヘルスケアにおける新しい価値を提案します。

「従来の健康という一本の軸に、ハピネスという軸を加えることが私たちの提案です。わかっているのにできない多くの人にとって、健康という価値のためだけに行動を変えるのは難しいことです。その人のありたい姿や喜びも含めてハッピーでヘルシーな状態をゴールとして設定することがヘルスケアのプロフェッショナルに求められるのではないかと考えました。」

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武部氏は、人々の自己実現を幸福度と健康度がともに最大化されている状態とし、自分のありたい姿に近づくために幸福度と健康度を高める因子を「イネーブリング・ファクター」と仮定しました。YCU-CDCの取り組みの中から、幸福度を高めたら健康度も自ずと高められるような、ハッピー経由のイネーブリング・ファクターを生み出した事例を紹介します。

「上りたくなる階段」は階段をアートに変えた施策です。既存の健康階段は消費カロリーを表示して使用者の健康に直接訴えかけるのに対して、本施策は一段先の絵が見たいという動機を生み出します。一見すると健康に関係ないようなものが、結果として健康を生み出すハッピー経由の介入が成立することを示したプロジェクトです。

続けて、「イネーブリング・ファクター」を増やすためには、従来の医学部の基礎医学や臨床医学のアプローチから、人々の生活や人生に向けて拡張する必要があると呼びかけます。ヒューマニティに着目したこの拡張領域は、人文科学や芸術学などの今まで医学に関係ないとされていた分野も内包しています。

「ストリートから様々な実践が生み出される時代の医学領域ということで『Street Medical』という呼び方をしています。もちろん実践の場は、私たち自身の生活であり実際に暮らしている街の中です。私たちは『Street Medical』が街づくりに貢献するようなプロジェクトも進めています。」

Street Medical Schoolについて

医学部、メディカルスクールは世界中に何百とあり、日本だけでもコメディカルの人材も含めると何十万人もの専門家が育っています。しかしストリートで医療の専門家が育つ場所はありません。そこで、武部氏はTDPと協働でこの領域の担い手を増やすためStreet Medical Schoolを2019年に設立しました。

今までに卒業生104名を輩出、コンセプトアイデア数94点のうち14点の社会実装を行うなど、医療やデザイン、アート領域を横断する人材を育み、社会に向けてアイデアを発信する場としても拡大しています。

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第三期となる今期の受講生は、高校生・大学生から医師や作業療法士のメディカル領域、クリエイティブやビジネスの領域など、多様な背景をもつ33名が集まりました。

講師陣には、広告、デザイン、メディアなどの各分野のフロントランナーが集結。オンラインで行われた講義やワークショップを通じて、Street Medicalに必要な知識やスキルを学び、実際にチームを組んでアイデア発案から企画提案を行いました。

Street Medical School受講生が発表したアイデア

武部氏の講義に続いて、受講生がそれぞれのアイデアをプレゼンしました。動画での口頭プレゼンテーション3組、Webサイトでのポスター発表7組、計10組の企画が発表されました。コメンテーターとして参加した専門家からは、それぞれの視点からフィードバックが寄せられました。

各アイデアへのコメントはこちらの別記事からご覧ください。
Street Medical Talks 10組のプレゼンテーションまとめ

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医療や社会を変える力

議論の最後に、コメンテーターのお二人から今回のStreet Medical Talksについてコメントをいただきました。

内田友紀さん 「専門家に任せきってしまうことで、色々な歪みができていると思うので、Street  medical schoolがやろうとしていることはすごく意義があると思います。みなさんの企画はこのスクールとの関わり方を含めてたいへん興味深かったです。医療側から言えないこともあるので、それぞれの皆さんの価値がすごく大きいなと思いました。これからも皆さんの取り組みを見ていきたいです。」

町亞聖さん 「病気は治すことも大事ですけど、サバイバーとして生きる、治らない病気と生きる人も多くなる時代です。医療以外の領域の専門性を高めていくということが、よりよく生きることの鍵になります。領域の拡張と言っても、お互いの仕事を取り合うわけではなく、それぞれの厚みを重ねていくことだと思います。自分たちも医療を変えられると思って変化を恐れずにできることを広げていってほしいです。」

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武部氏は「ここには、新しい流れを作りながら社会を変えたいと思っている人が集まっています。社会が変革するステップは大きく2つあって、ひとつは飛ぶように発想するフェーズ、二つ目は這うように実装するフェーズです。世の中にじっくりと届ける段階では、ネガティブなことを言われても、やり続けることが重要になってきます。この二つ目のフェーズについても私たちは手伝っていきたいですし、この先の社会にインパクトをもたらすことを皆さんの視点でやってもらえたらなと思います。」とイベント参加者に呼びかけました。

医療の新しい価値を考える「Street Medical Talks」

本カンファレンスでは、Street Medical Schoolの受講生がチームで取り組んだ新しいアイデアを通して、受講生と専門家の意見の交流が生まれる場を作ることができました。今年度も完全オンラインでの開講だったのにも関わらず、受講生の多様な背景や視点に加え、実装への意気込みも感じられる提案が揃いました。本日受けたフィードバックは、オンラインで試行錯誤して作り上げた企画を、実世界へ持ち込むための大きなヒントとなったのではないでしょうか。
今後、医療や介護、デザインやテクノロジーなど、様々な分野や領域を横断し「Street Medical」のアプローチによる新しいアイデアを社会実装する担い手を増やす大きな一歩となりました。

文:藤森晶子