これからの医療を考えるトークイベント「Street Medical Talks 2022」

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横浜市立大学先端医科学研究センターコミュニケーション・デザイン・センター(YCU-CDC)と東京デザインプレックス研究所(TDP)は、2022年12月24日、クリエイティブな手法を駆使したこれからの医療をテーマとしたカンファレンス「Street Medical Talks 2022」を、オンラインとTDP校舎にてハイブリッド開催しました。

YCU-CDCとTDPが運営する次世代の人材育成プログラム「Street Medical School」の第4期受講生による成果発表を中心に、フリーアナウンサーの町亞聖氏、東京デザインプレックス研究所 フューチャーデザインラボ ジェネレーターの山本尚毅氏をコメンテーターとして招へいし、議論を行いました。

「Street Medical®(ストリート・メディカル)」による医療のアップデートをどのように実践していくのか、カンファレンス当日の様子をレポートします。

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医療の未来に求められるストリート・メディカル

横浜市立大学特別教授・YCU-CDCセンター長の武部貴則氏による講義から始まりました。

医療は病気を前提に存在していますが、健康を目的とした医療の提供では追いつかなくなると予想されます。「病を診る」から「人を観る」という医療の起点を取り入れることが、ひとりひとりの豊かな幸せを実現し、医療の中核になる時代になってきたと武部氏は指摘します。

「誰かを助けたいと思ったことはありますか?ストリート・メディカルを考える上で、最初の動機付けは個人的な思いであり、ひとりの誰かを想定したときに解決するべきことが見えてきます。」

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病気に対して従来の手法だけではなく、人々の生活環境や人生における生活に近い領域へアプローチが拡大しています。街や暮らしに溶け込む新しい医療の概念を、ストリート・メディカルとして提唱しています。

「私たちは、すべての人が『自分の医療=My Medicine』を持ち、活用できることを目指します。それを実践するための医療の再定義であり、ヒューマン・セントリックな医療へのアップデートにつながります。」

Street Medical Schoolの実績

医療従事者やデザイナーをはじめ、多様な経歴を持つ受講生が、デザインやアートを取り入れた医療を学び創る場として、2019年にYCU-CDCとTDPの共同運営でStreet Medical Schoolを設立しました。

「従来の医療の領域を超えていく必要性がある中で、組織や機関が別々に活動するのではなく、別のコミュニティとつながって、新たなプラットフォームを形成する価値が大きくなってきています。」

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第4期となる今期はオンラインで開催となり、医師、看護師などの医療従事者から、製薬会社、医療機器メーカー、クリエイティブ業界、不動産業界、学生など、あらゆる知見を持つ33名の受講生が全国から集まりました。

デザイン、広告、医療福祉、ヘルスケア、教育などの各分野で活躍する講師の講義とグループワークを通して、医療の課題に対してストリート・メディカルの視点で解決策を提案する力を養いました。今期で卒業生137名を輩出し、制作コンセプトアイデア数は135点となり、社会実装も増えており、医療法人などのコンサルテーションも多数行っています。

具象化したアイデアを応用するために抽象化のステップへ

設定した課題からアイデアを具体的に掘り下げていくデザインのプロセスを、Street Medical Schoolでは取り組んできました。しかし、プロトタイプを応用へと進める場合に、具象化すればするほど社会との関係性が見えなくなることがあります。そこで次に、抽象化してどういうパターンに当てはまるかフレームを持っておくことで、別の事例にも展開できる可能性が見えてきます。

「ヘルスだけではなくハピネスの要素が、人を観るための起点となり、これからのヘルスケアのフレームとなります。この数値を高める手法を体系化するために、トリガーになるアイデアをストリート・メディカルで発想しています。」

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ウェルビーイングをヘルスとハピネスの両方から実現するための因子を「イネーブリング・ファクター」と呼んでいます。健康であるだけでなく、楽しさや喜びを同時に実現し、生活の質を向上させることが医療にも求められています。

ヘルスを高める従来のアプローチは、肉体的な健康、精神的な健康、社会的な健康であるとWHOが定義しています。これらに対して医療は、薬物療法、外科療法、精神療法、リハビリテーションで対応してきました。

一方でハピネスは、喜怒哀楽などの一時的な感情的幸福、所属組織でのやりがいといった少し長期的な幸福、さらに長期的な人生における幸福の評価に分けられます。これらのハピネスを高めるイネーブリング・ファクターとして、「PERMAモデル」がポジティブ心理学で提唱されています。

・Positive Emotion:嬉しい、おもしろい、楽しい、感動
・Engagement:イキイキする、没頭する
・Relationships:他者とのよい関係
・Meaning:意義を感じる
・Achievement:達成感

「Street Medical Schoolで制作した企画がPERMAモデルに当てはまる要素があるか、具体から抽象に捉え直すことで、他の課題に直面した時にも応用ができるようになります。この機会をスタートに、幅広い場面でストリート・メディカルを実践することを期待しています。」

Street Medical School受講生による成果発表

武部氏の講義に続いて、Street Medical School第4期生が8組のチームに分かれて制作した企画をプレゼンテーションしました。年齢も職業も異なるメンバー構成から生まれた企画に対して、登壇者より専門的な視点から意見が寄せられました。

各企画の内容とコメントは、こちらの別記事からご覧ください。
「Street Medical Talks 2023」8組のプレゼンテーションまとめ

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医療とデザインにおける今後の展望

クロージングトークとして、登壇者全員による総括が行われました。

受講生の発表を受けて、武部氏からは「どのハピネスをターゲットにするかよりも、どれを行ったらハピネスを高まるのか、PERMAモデルを当てはめて考えてみてください。抽象化して他に応用するために役立ちます。」とアドバイスがありました。社会実装の見込みがある企画の数々に、今後一緒にプロジェクトに関わることを楽しみにしている様子でした。

医療の将来を見据えて、町氏からは「看護師や理学療法士や薬剤師など、医師以外の職種が担うことが増えてきています。新しい発想で自身の専門分野以外に領域を広げていけるといいですね。ハピネスを視点に、今はなくてもあったらいいなという思いを具現化した、飛躍したアイデアが医療現場で求められています。これからの医療は、患者と共に医療と育てていく時代だと思っています。」とご意見があり、ストリート・メディカルの重要性にも触れられました。

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企画のアプローチについて、山本氏からは「印象的なアイデアばかりでしたが、言葉に頼っているコミュニケーションが多いことが気になりました。教育の現場で活動していると、言葉だけでは抽象的で理解してもらえないことがあるので、ビジュアルを使ったデザインの介入が欠かせません。デザインを活用して具体的に伝えていってほしいです。」とご指摘があり、デザインの力を取り入れる意味を強調されました。

最後に、Street Medical School共同創立者の沼田氏が「デザインの出口がグラフィック、インテリアなど、業界的に狭まってきています。その知見を必要としている領域が多方面にあるので、ブルーオーシャンに活かせる可能性があります。」と締めくくりました。

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Street Medical School受講生が異業種のメンバーとともに課題設定から解決策のアウトプットまで、医療現場で感じた課題や身近な人の生活に対して思いを込めて制作した企画は、ストリート・メディカルに基づいた医療との接点を見出していました。活発な意見交換を行い、配信と現地による開催で多くの参加者も集まり、有意義なカンファレンスとなりました。領域を越境したクリエイティブな共創と、人間中心への医療の再定義により、誰もが自分らしい生き方を実現できる社会へとつながっていくのではないでしょうか。


撮影: 正村直子
文: 米満香菜