「Street Medical Talks 2022」8組のプレゼンテーションまとめ

横浜市立大学先端医科学研究センターコミュニケーション・デザイン・センター(YCU-CDC)と東京デザインプレックス研究所(TDP)は、2022年12月24日、クリエイティブな手法を駆使したこれからの医療をテーマとしたカンファレンス「Street Medical Talks 2022」を、オンラインとTDP校舎にてハイブリッド開催しました。

当日会場にて行われた、Street Medical School受講生によるプレゼンテーションとコメントを発表順に紹介します。(以下、敬称略)

カンファレンス全体のレポートはこちらの別記事でご覧ください。
新しい医療を再定義するためのカンファレンス「Street Medical Talks 2022」開催

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のびゆ 〜ストレッチしたくなる入浴剤パッケージ〜

運動が嫌いな大人に着目して、浴槽の中で行う簡単なストレッチ方法をパッケージにデザインした入浴剤の企画。体調に合わせて複数のバリエーションから選択可能で、入浴剤を入れた後にパッケージを浴室の壁に貼り、イラストを見ながらストレッチを行います。温浴により血行が促進されて、運動の効果も高まります。日常的な入浴時間に自分のペースで取り入れられて、運動習慣と身体に意識を向ける機会を提供します。

町「商品化は早いと思いますが、差別化を図るためにストレッチに加えてさらに工夫してほしいです。セルフケアの有用性はあるので、シニア世代を入浴に誘導して、フレイルチェックに使うアイデアに展開できるのではないでしょうか。」
武部「入浴する習慣がある人で購入層が限定されてしまうので、対象者をさらに深める必要を感じます。入浴中のストレッチに睡眠改善のエビデンスがあるなら、トリガーとして適していると思います。」

発表内容の詳細はこちら。
https://poster.streetmedicalschool.com/blog/sms4-1/

患者さんと薬剤師をつなぐ「デザイン点滴カバー」でハピサポ!

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外来化学療法に通院する患者の心理的負担を軽減し、抗がん剤を調剤する薬剤師とのコミュニケーションツールとなる点滴カバーの企画。薬剤師の顔写真やアイコンを載せ、患者へのメッセージが書き込めるデザインです。薬剤師を身近に感じて相談しやすくなり、不安の解消につなげます。また、医師や看護師に比べて患者との関わりが少ない薬剤師にとって、患者の抱える思いを知るきっかけになります。患者と薬剤師の関係性を築くためのハッピーな効果を期待します。

山本「長時間過ごす外来化学療法室なので、点滴カバーにフォーカスするだけではなく、滞在時間の体験全体をデザインすることも解決策のひとつだと思います。」
町「必要最低限の会話しかできない現状が、この企画の課題のポイントです。外来がん治療の薬剤師資格があるように、薬剤師が任される専門分野が増えてきています。個人差のある抗がん剤の副作用について薬剤師が丁寧に相談に乗ってくれることは重要なので、薬剤師の存在が患者にもっと見えるようになるといいですね。」

発表内容の詳細はこちら。
https://poster.streetmedicalschool.com/blog/sms4-2/

お父さんを褒めて支える、家族で取り組む間食管理ツール「正直者カレンダー」

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間食の記録を振り返りながら、良い時も悪い時も褒めることで、家族全員で楽しく食事改善を目指すカレンダーの企画。家族が父親を心配に思い、注意しても聞き入れられないというチーム内の個人的な課題から発案されました。1週間単位のカレンダーに日々の成果や反省を書き込み、継続して取り組む姿勢を褒めるシールを家族が貼る仕様です。栄養的に完全な状態をすぐに目指すのではなく、健康を一歩ずつ実現するために、食生活への関心を高める導入となります。

町「褒めることは大事な要素で、職場でお互いを褒め合うワークショップを行うことで人間関係が向上した事例があります。将来的には、食べたいものは月に1度にするといった食生活へ行動変容するようなツールにしてほしいです。」
山本「老いを可視化する方法も考えられます。加齢とともに同じものを食べているのに太る傾向になってくる現象が問題で、消化機能が減衰していることを示して、間食を減らす理由を明確にすると意欲的に続けてくれると思います。」

発表内容の詳細はこちら。
https://poster.streetmedicalschool.com/blog/sms4-3/

スマホも心も充電できる吊り革

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長時間の電車通勤でストレスを感じているビジネスパーソンを対象に、吊り革にボックス型スマートフォン(スマホ)充電器を設置して、自分の心身に意識を向けることを促す企画。ボックスの中には、スマホではなく自分の心を見つめることを勧めるメッセージが施されています。使用頻度の高いスマホから離れて、通勤中の電車で疲れを感じる時間を心の充電時間に変えることで、メンタルヘルスの向上につなげます。

武部「満員電車のストレスは、メンタルだけではなくフィジカルへの影響も大きいはすで、酸素濃度が低くなったり、血圧が高くなったりするといった文脈を作っていくと、説得力が上がります。フィジカルヘルスの問題との連動に可能性があると思います。」
町「日本の吊り革の歴史は明治時代に遡り、安全性の重視により取り入れられています。ハートやビール缶を模した吊り革など、色々な形状での事例があります。実験的にデジタルデトックス車両を導入して、ムーブメントを起こす施策もあるのではないでしょうか。」

発表内容の詳細はこちら。
https://poster.streetmedicalschool.com/blog/sms4-4/

大切なあなたへ、健康な嚥下を。香る食前だし

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50~60代の親世代を対象に、嚥下(飲み込み)機能の低下のテストとトレーニングが実施できる食前だしを、家族に贈るギフトの企画。だしが出るまでの間にリーフレットを読み、嚥下機能を確認する簡易テストを行い、食前だしを味わいながら、呼吸を意識した嚥下方法を学べます。嚥下に関わる筋肉は40歳頃から衰え始めますが、機能低下が表面化する70歳頃まで予防的な介入が不十分です。早くから正しい知識を得ることで、将来的な誤嚥性肺炎の予防効果が期待されます。

町「誤嚥性肺炎は、医療と介護現場の大きなトピックです。嚥下力を衰えないようにすることは重要で、香りは良い着眼点です。末期がんで食事が取れない人に向けて、調理場からお味噌汁の香りを病棟に漂わせる工夫をしたホスピスでの事例があります。香りを嗅いだだけで嚥下運動が誘発されるプロダクトになるといいですね。嚥下機能に不安がある人は、まずは耳鼻咽喉科など、のどを専門とする診療科を受診してから、原因に応じて他の専門医に診てもらうことをお勧めします。」
山本「一連の体験を贈るのは良いアイデアです。家で習慣化するむずかしさがあるので、飲食店などで家族が集まるときに、食前酒のように香りを楽しむところを入り口に情報提供することも考えられます。」

発表内容の詳細はこちら。
https://poster.streetmedicalschool.com/blog/sms4-5/

問診票と「問心票」~患者さんと医療者のコミュニケーションの後押しに~

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膝の外傷である前十字靭帯損傷を取り上げて、治療期間の長い患者の心理的サポートのために、手書きの手紙のような「問心票」を提案する企画。分業化された大規模な病院では、患者と医療従事者とのコミュニケーション不足が課題です。医学的情報を得るための従来の問診票に加えて、患者が心配に感じていることを書き込めて、質問欄には担当者からの回答が返ってくる仕組みです。初診だけではなく、治療過程の中で、患者さんの心に寄り添いながらスムーズな医療連携を目指します。

武部「どの医療従事者が問心票に対応するか、差し込むところがむずかしいですが、最初の医療従事者とのタッチポイントではない方が適していると思います。医師の診断後に、理学療法士などによるケアプラン作成時に利用すると、より効果的ではないでしょうか。この企画はヘルスドリブンなアプローチなので、患者の持つ不安を具体的に掘り下げて、どこをハピネスドリブンに改善していくのか、トリガーになるような設計が必要です。」

発表内容の詳細はこちら。
https://poster.streetmedicalschool.com/blog/sms4-6/

のびのび!姿勢磨きステッカー

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親子でコミュニケーションを取りながら、幼少期の姿勢の意識化で心身の正しい成長を促進するステッカーを、歯磨き粉のノベルティとして提供する企画。子供のデジタルデバイス利用にともなう座位時間の増加により姿勢が悪化すると、将来の健康や骨格の形成に影響します。子供の姿勢を注意するネガティブな方法ではなく、鏡に貼り付けたステッカーに合わせて子供が背筋を伸ばしたら、家族が褒めるポジティブなやり取りが生まれ、歯磨きとともに毎日姿勢を磨くことを習慣化します。

山本「商品化されたらぜひ買いたいです。歯磨きしながら背中が丸まっている自覚があります。大人用のステッカーもあって、親子で一緒に取り組めたらいいですね。」
町「全国体力テストで小中学校の男女が、過去最低の点数だったそうです。立つ姿勢から改善が必要だと思います。座るときのクッションなどはありますが、立ったときのアイデアは新鮮です。子供が好きな仕掛けになっていて親子で楽しめる、需要がある企画だと感じます。」

発表内容の詳細はこちら。
https://poster.streetmedicalschool.com/blog/sms4-7/

出張保健管理センター “Medicar”

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学生の抑うつ傾向への予防と、保健管理センター利用への導線として、移動式施設を提案する企画。自身の精神的な不調を共有できない状況にある、大学の新入生が対象です。学生の健康を支えるために大学には保健管理センターがありますが、認知度が低く有効に利用されていないことが課題です。大学の構内に”Medicar”を掲げた軽バンを配置し、リーフレットの配布や交流会を設けるなど、気軽に相談できる環境を整えます。

武部「キッチンカーに実は保健管理センターの機能があるなど、体験として提供されるサービスの実施しやすさ、学生との距離をポジティブに変える体験上の工夫が必要です。先輩と接点を持てる、ピアサポートの役割を果たせるメリットを感じます。」
町「20代の死因の1位は自殺です。コロナ禍で学生の活動自粛が強いられていたことも拍車をかけていると思います。SOSに気付いて専門職につなぐゲートキーパーを増やして、昔からあるのにも関わらず知られていない保健管理センターの資源を活かしたいですね。」

発表内容の詳細はこちら。
https://poster.streetmedicalschool.com/blog/sms4-8/


撮影: 正村直子
文: 米満香菜